メカトロニクスの検討
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ロボット・メカトロシステムを構築するために、アクチュエータは不可欠です。 ここでは産業用・生産システム用にに使われるアクチュエータを中心に、概略を紹介します。 産業用・工場などの生産設備などで用いられるアクチュエータの一般的特徴として
  • 根本的なエネルギー源は100Vや200Vの交流電力であること
  • 特殊性の少ない、汎用品であること
が挙げられます。 「いわゆるロボット」の開発においては、特殊なエネルギー源が使われることがあったり、一般的ではないアクチュエータが使われていたり、ということがあり、状況は異なります。
ただ、いずれにせよ、何らかの動きを作り出します。


電流と磁気の相互作用を用いるアクチュエータ。 アクチュエータの大半は電気式のモータ。 ただ、モータと言ってもメカトロIIで紹介したように非常に多岐に渡る。
単に回転動力として使いたいのか、制御性を伴ったモータなのか、といった点でも選定基準が変わる。 単なる電磁石、ほぼ電磁石な直動のアクチュエータであるソレノイド、流体を制御するための電磁バルブなど。 一般に単なるオンオフで使うことが多いが、電流等を制御して中間状態を使うこともありうる。

油圧シリンダ、油圧モータなど。主に大きな力が必要な箇所に利用されている。 ただ、近年のモータの高出力化にともなって、従来は油圧だったプレスなどもモータ化が進んでいる。

小型軽量で直動の動きを作れるという利点から、工場の生産設備で多用されている。 大出力用途での利用は下記の理由から少ないが、直径を太くして出力を高めた製品もある。 また、ロボット系研究やパワーアシスト系研究では、シリンダではないが、空気圧直動アクチュエータとしてのマッキベンアクチュエータが使われているケースがある。 負圧を利用して、軽い物(小型の部品、製品など)を吸い付けて持ち上げることに使用。 負圧は真空ポンプ、エジェクタ(真空発生装置、参考)などで作る。 厳密にはアクチュエータではないが、小さな部品のラインからの排除などに使用。 単にバルブからのチューブの開口端をライン脇に設置。
油圧と空気圧はいずれも流体を利用するアクチュエータですが、いうまでもなく、油は圧をかけてもほとんど体積が変わらず、空気は大きく圧縮されるという点です。 そのため、大きな力を出す目的には空気圧は向かず、また、外力がアクチュエータにかかった場合に空気が圧縮されて期待通りの動作をしないことがあります。 一方で、油は回収の経路が必要なのに対して、空気はその場で捨てられること(吹き飛ばしはまさにその例、配管が片道で良い)、空気は漏れても汚染などの直接的トラブルに繋がらないこと、圧縮性を利用して軟らかい(外力で逃げやすい)機構をつくれることなどは、空気圧の利点です。
油圧と空気圧は、「電力などのもととなるエネルギー源を流体のエネルギー(圧力・流量)に変換する部分」と「流体のエネルギーを機械的運動に変換する部分」が分離しているという特徴があります。 前者が大きく重たい一方で、後者は簡潔で比較的小型軽量であるため、設計によっては優位になることもあります。
生産システムにおける空気圧アクチュエータの使われ方は、まさに、この利点を生かしているとも言えます。一カ所で集中してコンプレッサで空気を圧縮し、バルブで流量を制御、細かな間欠動作に小型のエアのシリンダなどを用いています。


アクチュエータのみを購入し、汎用の制御装置または自作の制御装置を使用。
アクチュエータメーカの推奨コントローラを合わせて購入。もしくはアクチュエータが最初から制御装置とセット販売。
油圧・空気圧アクチュエータでは、コンプレッサ、電磁バルブ、アクチュエータ本体などを個別に購入して配管でつなぐと問題なく動作する場合が多い(=単品売りされている)のに対して、電磁アクチュエータ(モータ)の場合は、相応のコントローラ(制御回路・制御装置、後述)が必要な場合が多々あります。
ただの動力として回すモータの場合は、回転数調整のためにインバータを追加する場合もありますが、基本的には電源をつなぐのみで回します。しかし、ある程度きちっとした運動、制御された運動を必要とする場合は、それなりのアクチュエータとそれなりのコントローラが必要です。
多くのアクチュエータメーカでは推奨もしくは必須コントローラを製品と並べてカタログ掲載していますし、場合によっては自作することもあります。

特に、生産設備など、産業用途で使用する場合には、通常は専用コントローラとセットで購入します。 専用コントローラを用いる利点は

  • 手軽にアクチュエータを使える(マニュアル通りの設定で)
    ※自作すると開発に手間、他社汎用品を使う場合は適合性の確認や接続ワイヤの製作など必須
  • アクチュエータの特性を正しく引き出す制御やチューニングがなされている
    ※カタログには出てこない特性の調整は容易ではない
  • トータルで低コスト
    ※自己開発や調整にかかる時間コスト的に
という利点があります。ただし、弱点として
  • 電源のオプションが限られる
    一般にAC100V/200V(単相/三相)電源が要求され、DC24Vでバッテリ駆動したい、という仕様があると、コントローラの制約でアクチュエータの選択肢も大幅に狭められる。
    (わざわざDC24V→AC100Vのインバータを積む設計をする場合もあり)
  • アクチュエータの「無茶な使い方」ができない可能性が高い
    電磁アクチュエータは短時間には3倍の電流を流して3倍のトルク(平均的には定格以下)を、という使い方が原理的にできる物が多いが、専用のコントローラではこういう規格外の使用は禁止されていることが一般的。
といったことが挙げられます。その場合は、他社性汎用コントローラや自己開発を検討する必要があるかもしれません。また、アクチュエータの性能をぎりぎり引き出す必要は無く、また量産することが目的、という場合は、自己開発した方がトータルで安くなるラインはあるはずです。

アクチュエータの中でも特に広く使われる電気式のモータについてさらに分類します。
従来からある一般的なモータ。 最近の主流のモータ。交流モータの一種。交流モータは動力用モータとしては以前から広く使われていたが、細かな制御が難しく、以前はロボットメカトロ用ではなかった。近年の電子制御技術の発達とともに、コントローラの小型化、低価格化が進み広く普及した。モータの構造としては直流モータに比べて単純でコンパクトに大出力を出しやすい。
ただし、専用のコントローラが必須。 直流モータの一種。流す直流電流とトルクが比例すること、電流制御であればアナログ回路でも十分可能であることなどから、以前から制御用モータとして広く使われてきていたが、現在ではACサーボにとって代わられた。メンテナンス性なども劣る(ブラシが弱点)。 ただし、その単純さから他社製コントローラの使用や、自作装置による制御が容易=周辺仕様への適合が比較的容易、ということから、採用例はまだまだ多い。特に、電池駆動のロボットなどでは便利。 簡易的な制御装置で、オープンループで、指定角度の回転、指定速度での回転などが容易であるため、小出力用途では広く使われている。フィードバック用のセンサが不要な分だけ低コストであることが多い。 ただし、予定外の負荷に対しては脱調するため、「想定外」が起こりうる用途に使うときは要注意。
コントローラが無ければ回せないが、コントローラの自作は他に比べてずっと容易。 従来から動力用(ただ回すだけ)のモータとして使われてきた。 ほぼ、投入した交流電力の周波数に比例して回転するため、周波数を変えるインバータ装置とともに使用して、回転数を変えることも可能。 また、近年の制御技術の発達とともに、高度なトルク制御・回転も可能になった。一般的なACサーボモータがロータ(回転部)に永久磁石を使用するため大きさに上限がある一方で、誘導モータは磁石も巻き線もない単純な構造にすることができ、大出力のモータまで製作できる点は有利。コスト的に安く、メンテナンス性も良い。

最初から直線的な動きを出力するモータ。高級な工作機械などで導入されつつある。 リニアモータの主流。ACサーボモータを切り開いて引き延ばした構造。 一般には、直線的にならべた磁石と、移動するコイルの組み合わせ(日本の磁気浮上式リニア鉄道は、移動する側が磁石)。 誘導モータの原理でリニアモータとしたもの。コイルの相手を磁石列ではなく、銅板(アルミ板)と鉄板の積層板としたものなど。出力などの面では磁石型に劣る物の、コストが安い(リニア地下鉄はこの方式)。 ステッピングモータの原理でリニアモータとしたもの。

回転式モータを適宜選択 最初から目的の動作のアクチュエータを選定。一般に、高速、無バックラッシ、高逆可動性。ただし、高コスト。 一般的選択肢。予圧されたボールネジを使用し、減速機を挟まなければ、ほぼバックラッシ無し、またボールネジであれば、リードが極端に短くなければ逆可動性あり。 台形ネジを用いた場合は低コストであるが、逆可動性無し(このことが利点の場合もある)。 一般にはタイミングベルトを使用。軽負荷の場合、動力伝達経路が複雑である場合、ネジにするには長距離の場合、などに有効。ネジに比べて利点も欠点もあるが、注意すべき点はベルトが長くなると、ベルトの伸びにによる剛性低下が問題となり得ること。 これらが一体化した複合アクチュエータが存在する。直動+大きな推力(+低速度)の特性を持つ。 全体を油圧化するほどのことではなく、局所的に大きな推力が必要な場合に、選択肢となる。 油圧を一種の減速装置+直動変換に使用している、とも見られる。
アクチュエータのコントローラという場合、大きくわけて2階層の役割があります。 アクチュエータの特性を対象とした、トルク/力、角速度/速度、角度/位置の制御。 制御の状態(ON/OFF)、エラーの検知、モードの選択 2点間の往復、加減速制御(速度パターン) 制御工学的な観点からの制御は前者ですが、それだけでは目的をもった仕事をさせることができません。 そのため、後者、とくに運動の設定が必要になります。 特に産業用途では特定のパターン動作の繰り返しなどを行うケースが多く、「産業用」のアクチュエータのコントローラには後者の機能を併せ持つことが一般的です。 ロボット研究などを行う場合、汎用性の高い動作をさせる場合などは、時々刻々と外部から運動の指令値を入れる必要がありますが、そういった使われ方をするアクチュエータは(コントローラとセット買いされるアクチュエータという意味では)一部です。
歴史的には、マイコンを搭載しない時代は前者の機能のみでしたが、いまどきのアクチュエータはマイコンで制御されることが一般的になり、そのマイコンの余力(一般には前者のほうが圧倒的に演算力を要求される)で付加価値として後者が搭載されるようになって便利になった、と言えます。

右図にモータコントローラの概略を示します。一般に以下のような配線があります(図中の太線は電力を流す=電流の多い=物理的に太い線)。 一般に制御部分を動かす電源(たとえばDC24V)と、モータに供給するための電源(たとえばAC100V)は別の入力になっている。非常時に、リレー(電磁コンタクタと呼ばれることもある)によって動力電源を遮断することがあるが、それで制御系まで落ちると困るため(制御電源を動力電源からつくる回路を内蔵すること自体は容易であるにもかかわらず)。 モータとアンプを接続する線。直流モータの場合は2本(+アース1本)、交流モータの場合は3本(+1)、ステッピングモータなどではより多くの本数となる。 モータのフィードバック制御には一般にロータリーエンコーダを用い、その電源供給と計測値のための配線がある。 外部からオンオフの指令を伝える端子。一般に12~24Vを印可するとオン扱いになる。たとえば、モータの制御開始の指示、事前に設定した目標点番号への移動指示などを入力する。 コントローラの状態を出力する。一般に「スイッチを内蔵」しているように振る舞い、内部でオンオフされる。たとえば、モータの制御状態、目標位置到達完了、各種エラー状態などの出力を行う。 1パルスを入力すると、それに対応する角度だけモータが回る、など。CW/CCW(時計回り/反時計回り)の入力があったり、パルス入力と回転方向の指定であったりする。必要なパルスを入力すれば目標角度まで回り、毎秒一定速度でパルスを入力すれば一定速度で回る(モータの制御はコントローラが行うが、その指令として)。 一般的なモータにはロータリーエンコーダが装備され、これによるパルスが制御に使われると同時に、コントローラから出力される。一般に、パルス指令の角度単位とエンコーダの分解能は対応関係がある(具体的には、1パルスの入力が、エンコーダの分解能1に相当するなど)。コントローラによっては、電子ギアなどと称して、パルス指令やエンコーダ出力の1パルスと、エンコーダそのものの分解能に比率を設定することもできる。 主に、昔の機種との互換性で、速度指令やトルク指令を入力、また現状のモニタのために出力する。単純な(昔の)コントローラはこのアナログ入出力しかなく、エンコーダからのフィードバックなどは別の制御器で行う必要がある。特に必要なければ、今は使わない方が無難。 接点入力、接点出力はオンオフのみでコントローラを利用することができ、シーケンス回路、PLC(シーケンサ:マイコン内蔵でシーケンス回路の相当品をプログラムできる)に接続して使うのに向いています(右図中)。 また、コンピュータ制御で使う場合も、モータの制御オンオフなどの指示はこの端子で行います。
コンピュータ制御で動作を細かく制御したりする場合は、パルス列による指令とエンコーダ出力による実角度の検出が必要になります。ただ、ソフトウエアでこれを行うことは負荷が高いため、一般に専用回路(パルス出力~高級品はモーションコントローラ、カウンタ)を用意します。マイコンの場合は内蔵している物を選びます。

なお、アナログ端子以外は電気的に絶縁されていることが多く、なにかとノイズトラブルの要因になりやすい電力系と、制御系を電気的に切り離せるようになっています。 アクチュエータを選択する場合、数値的指標としては動力[W]を使用します。
アクチュエータ 減速
動作の変換(リンク、カム)
目的とする動作
アクチュエータの動力[W]
(アクチュエータの電力[W])
変換効率を加味 実際の動力
選 定 速度[m/s]×力[N]
角速度[rad/s]×トルク[Nm]
※[W]=[Nm/s]
アクチュエータの出力をそのまま使うことは稀で、一般には減速機や各種機構による変換を行います。 たとえば減速機で回転速度(角速度)は減る一方でトルクは増します。その過程で、効率分だけ目減りはしますが、速度と力の積の次元を持つ「動力[W]」は維持されます。 よって、逆に、目的とする運動の動力が計算できれば、効率分を加味して、アクチュエータに要求される動力を、減速機や機構の検討をすることなく、得ることができます(実際には効率の見積もりには機構の選定は必要ですが)。 これでアクチュエータを選定し、その最大トルクや最大速度と、実際の運動に要求される力や速度の関係から減速機を選定すればいいわけです。

ここでは、アクチュエータと動力伝達の選定について、順を追って説明します。 両者の選定は互いに相手に影響を与えますが、まずアクチュエータを選定し、その仕様に応じて、減速系・動力伝達機構の数値的確認を行います。

まず、全体の流れを見てみます。

電力などのエネルギー源が、アクチュエータで機械的な運動に変換されます。 これを減速機や機構によって、目的の動きに変換します。

目的とする動きはロボットの仕様によって既に決定されています。

  • 回転運動か、直動か
  • トルク(力)はどれだけ必要か
  • 角速度(速度)はどれだけ必要か
多くの場合、アクチュエータには回転モータを使うので、直動が必要なら直動変換が必要です。 また、多くのモータが「回転は速いけど、トルクが小さめ」なのに対して、ロボットメカトロ用途(たとえばマニピュレータなど)では「回転はほどほどでいいけど、大きなトルクが必要」という場合が多々あります。 これらのミスマッチを解消するために、モータの仕様(トルク・回転数(角速度))出力を、目的とする仕様に変換するために、減速機や運動変換のための機構を用います。 減速装置の特性は、

に示すように、
  • 一般に速度比はメカ的に確定し、「減速比」だけ変化する(通常は遅くなる)。
  • トルク・力は減速比の逆数で変化する(通常は大きくなる)が、そこに変換効率が乗ぜられる。
となります。
なお、減速比は(1/n)のような分数型と(a:b)のような比率型の表示があります。また、同じ数値で減速比nと表示されることもあり、注意が必要です(「減速機」と断言されていれば、どの表記でも間違わないのですが)。

以上をもとに、ステップを追って、動力系の選定を行います。なお、ここではアクチュエータを電気回転モータに限定します。

ここで着目するのは動力[W]です。力学の式で

です。効率が100%なら、減速機で速度は1/nに、力がn倍になります。そのため、速度やトルクが変化しても、この動力は変化しません。 目的とする動作から動力を計算すれば、アクチュエータに要求される動力に目安ができます。

上図に示すように、モータの出力動力は、動力伝達機構の効率だけ目減りして、最終的な動力となる。 そのため「目的の出力÷伝達系の効率」によって、必要なアクチュエータ出力が求まる。
目的の出力は「力×速さ」「トルク×角速度」で得られ、これはすべてロボットの仕様から決められている。
ただし、ここで「メカの効率」は未知であり、何らかの仮定を置いて計算してみる必要がある(平歯車なら8割、減速比の大きい場合は5割など、摩擦の大きそうなものは効率が下がりがち)。

このアクチュエータに要求されるトルクから、モータメーカのカタログを参照して、モータの選定を行う。
カタログ例:

産業用モータとしてはACサーボが増えてきている。また、同じ[W]数でも、様々な選択肢があるが、その場合はコントローラの対応や、電源仕様、コストなども含めて、検討を行う。
なお、アクチュエータ自身にも電力との変換効率があるが、一般にモータの性能での「出力○○[W]」は変換効率込みの、出力軸の動力の最大値である。
また、モータのトルクなどの数値には「定格」と「絶対(定格)」という2種類の数値が記載されていることがあり、後者は数割増しになっている。定格は連続運転する場合に守るべき上限値で、絶対は短時間には出すことのできるトルク・回転速度を表している(火事場のバカ力的)。間欠運転でなければ、原則として定格で選定すべきである。


減速比の決定のため、速度比を計算する。
入力:モータの定格回転数(or最大回転数)
[rpm]→÷60→[rps]→×2π→[rad/s]
※rpm:revolution per minute、一般にモータの回転はrpmで書かれる
※rps:revolution per second、計算用に途中に置いた単位

出力:ロボットの仕様(回転関節、直動装置、車輪など)
[rad/s] or [mm/s]
回転関節:そのまま[rad/s]で設計
車輪:速度÷半径 (v=rω, ω=v/r)
直動:移動速度

減速比計算:
回転の場合:
(無次元)
直動の場合:


減速系の選定にあたっては、後述のような減速機の代表的特性を考えながら、選定を行う。 特に、直動出力とする場合は、直動部分を一番最初に決定する(直動に直した後に直動VS直動での減速は(コンパクトには)難しいため)。 モータと直動機構(ネジ、ベルト)を直結できる場合もあるが、別途減速が必要な場合は、直動部分を定めてそこの決定後に、残った速度比を回転の減速系で設定する。
以上の選定のモータと減速系の組み合わせにおいて、

  • モータの定格速度×減速比が目的の速度よりも速いこと
  • モータの定格トルク÷減速比×効率(伝達系を選定すれば効率は見積もり易くなる)が目的のトルク・力より大きいこと。
を再確認する。なお、モータのスペックは、トルクの単位が[mNm](ミリ・ニュートンメートル)であったり、定格速度が[rpm]であったりするので、単位には十分注意すること。
(以前はkg-cm表記が多かったが) ここで紹介した方法は、「モータの動力に余裕があった場合」にその余裕をトルクに振り向けています。 一般に、一度仕様を確定したシステムで「突発的に予定より速度が必要になる」ということはありません(それが必要になったら、仕様変更レベル)。 一方で、何らかの接触、伝達系の油ぎれなどによる摩擦の増加など、突発的に「予定より大きな力が必要になる可能性」は案外あります。そういった場合は普通は「安全率」でカバーしなければなりませんが、その上にさらに力的に余裕を持てる設計になります。
おなじ減速比、運動変換を行うにも、様々な機構があります。 それらを選定するには、ある程度、特徴を知った上で方式を選定し、より細かな選定を行う必要があります。

まず、減速機・運動変換機構で着目すべき特性は以下のような物があります。
回転←→回転、回転←→直動、など(直動←→直動は実用的にはあまり使われない)
回転数比 例:1/10
直動機構 例:5mm/rev (5mm/2πrad)
上述の効率。一般に入力軸→出力軸の効率。ものによっては出力→入力の効率もある。
軸のなす角
平行直角
軸と軸
の距離
ゼロ同軸直交軸(軸直交)
非ゼロ平行軸ねじれ軸

一般に、軸のなす角が直角以外の半端な角度になることはまれ。
当然ながら、小さいメカ、樹脂製のメカなどは小さな力で壊れやすい。 そのため、どのくらいのトルク、どのくらいの動力(トルクと定格入力回転速度など)に耐えられるかは、減速機の大きさを決定づける。平歯車の場合は、歯面強度などの形で規定される場合もあり。
バックラッシは平歯車など機構によっては不可欠とされるが、出力軸の位置決め精度の低下になるほか、入力軸の回転方向の反転が、出力軸に伝わるまでの時間差として現れるため制御上の問題(遅れ)となる場合が多い。 ただし、常に一方向に回転する用途であれば、問題ない。
※もとがbacklashで「バックラッシュ」とも言われるが、専門的には「バックラッシ」が主流。
減速機は、入力軸を回した結果として出力軸が動くが、逆に、出力軸を動かそうとして入力軸が動くかどうかを表す。「バックドライバビリティがある/ない」という。
逆可動性がある場合、電源が切れている状態で装置を外力で動かすことができるため、事故や不具合時に役立つ場合がある。また、研究用ロボットでは重要とされる。 一方、逆可動性が無い場合は、電源が切れたときに動かない。なにかを昇降させる装置などでは保護に役立つ(場合によっては、逆可動性あり+電磁ブレーキがよい)。
以下で紹介する伝導系は、入力と出力の関係が時間と供にずれていくことはないが(摩擦伝導やベルト駆動ではすべりでずれる)、細かく見れば、歯車の歯面の精度などで、本来の入力軸と出力軸の理想的な伝達関係からの進み遅れが生じている場合がある。
装置の精度に影響しうるほか、入力軸を一定速度で回しても出力軸の速度がわずかに変動するため、振動を起こす原因にもなりうる。 なお、精度は減速と供に圧縮される。そのため、問題になるのは出力に近い箇所での精度である。
一般的に、構造が複雑なもの(≒複雑にしてもその性能の価値があるもの)は高価であり、適材適所で不必要に高価な機構を設計すべきではない。


おおむね、以上のようなポイントに着目して、以下、代表的な伝達機構を列挙します。
平歯車
減速装置の代表的なもの。

減速比:歯数の比。かなり自由に選定できる。一段で1/3程度が実用的=多段にすることが多い
効率:高
軸:平行軸。2段で同軸にできる。
バックラッシ:有
逆可動性:有(段数が少ないとかなり高い)

遊星歯車減速機
平歯車よりも減速比は高めで数分の1にできる。多少複雑ながら構造はより強い。特に、同軸であるため、多段にしたときにもコンパクト。

減速比:内歯車、遊星歯車、太陽歯車の歯数で決まる。
効率:高
軸:同軸
バックラッシ:有
逆可動性:有

N/A ギアヘッド
モータに直接取り付けて、モータとセットで販売されることが多い減速装置でギアヘッドと呼ばれる物がある。 遊星歯車減速の場合もあるが、多くは平歯車を1~数段組み合わせてケースに入れた物。
減速比:仕様による

効率:一般に高
軸:平行軸(ただしモータからのずれは少ない)/同軸
バックラッシ:有
逆可動性:一般に有

ハーモニックドライブ
ハーモニックドライブシステムズ社の製品。変形する円筒状歯車と楕円筒、内歯車を組み合わせた特殊な減速装置で、大幅な減速が可能。大きな減速比と逆可動性を両立しているが、順方向の効率が多少低い(減速比当たりでいえば、平歯車も低下してくるが)。またバックラッシがないなど、様々な点で優れるため、ロボットで採用されている事例はかなり多い。

減速比:構造による。1/100などの減速が1段でできる。
効率:中
軸:同軸
バックラッシ:無
逆可動性:有
特記:高価、そこそこ重い。

ベベルギア・マイタギア・傘歯車
減速比が1/1のもの(方向だけかえる)をマイタギア、歯数が異なるものをベベルギアという。日本語表記では傘歯車と呼ばれる。 軸の方向を変えるために使われるが、バックラッシが大きいという弱点がある。より正確にいえば、歯車の取り付け位置の微妙なずれでバックラッシが大きく変化する。 そのため、バックラッシが問題になるところには使いにくい。 ただし、バックラッシはさらに減速すると出力軸への影響は少なくなるため、入力軸寄りでは問題にならないこともある。一方、出力軸には原則として使わない方がよい。

減速比:歯数の比。一段で1/3程度が限度。また、特殊な形状の歯車でセットで買うものであり、減速比の選択の余地はほとんど無い(1/1, 1/2, 1/3などの単純比のみ)
効率:高
軸:直交軸。類似品でねじれ軸のものもある。
バックラッシ:有・大
逆可動性:有

ウォーム減速機
ねじ状の円筒歯車=ウォームと、それに対応する平歯車に近い形の歯車=ウォームホイールのセットの減速機。 ウォームが一回転すると、ねじが1歯進み、ホイールも1歯進むため、ホイールの歯数が減速比を決める(ウォーム1回転で2歯進む=2条ねじ、もある)。ウォームとホイールの歯形の設計でさらに分類される。 一段で大きく減速できることと、逆可動性の無さが特徴。

減速比:ウォームの条数(溝の本数、1回転あたりの歯の進み)とホイールの歯数で決まる
効率:中
軸:ねじれ軸
バックラッシ:有(段数が少ないとかなり高い)
逆可動性:無

リンク機構(四つ棒リンク、クランクスライダなど)
運動の変換にもつかえるほか、減速・増速に使うこともでき、設計の自由度は高い。 ただし、一般に非線形特性を持つため、出力を一定速度で動かす場合には入力軸の速度を可変する必要がある。 一方で、場所によって(特に死点に近いところでは)減速比が変化するという特性を利用し、入力軸を一定速度、一定トルクで回しつつ、瞬間的に大きな力を発生させたりできる。
バックラッシなどの特性はリンクのジョイントに依存する。ボールベアリングなどを用いれば、かなり低減できる。

減速比:非線形(三角関数や√が入る)
効率:一般に高
軸:種々
バックラッシ:リンクのジョイントの部品次第
逆可動性:一般に有

台形ネジ
代表的な直動機構。ネジを回転させると、ナットが進む。パラメータはリード=ネジを1回転させたときに移動する距離である。また、条数=ネジ部の溝の数=1回転させたときに溝が何本ずれるか、も記載されている(一般に、リードの大きなネジは条数が2,3であることがある)。
つぎのボールネジとの最大の違いは逆可動性の有無である。

速度比:リード[mm]は1回転当たりの移動量。なので、(リード/2π)[mm/rad]を用いる。
効率:低
軸:回転←→直動
バックラッシ:有
逆可動性:無

ボールネジ
代表的な直動機構。ネジ機構にボールベアリングのアイデアを融合したようなもので、ネジとナットは直接接触せず、その間で球が転がる(図では隙間があるが、球と溝はほぼ密着)。そのため、極めて滑らかに回り、効率が良く逆可動性もある。 ただし、ナットがネジ端から外れてしまうと球がこぼれ落ち、組立が大変である。

速度比:リード[mm]は1回転当たりの移動量。なので、(リード/2π)[mm/rad]を用いる。
効率:高め
軸:回転←→直動
バックラッシ:ほぼ無(「予圧」により実質ゼロとしたものもある)
逆可動性:有

タイミングベルト
通常のベルトは滑りが生じるが、タイミングベルトはプーリの歯とベルトの歯が引っかかるため、それ以上のずれは生じない。ベルトとしての特性である、軸間距離の離れたところへの動力伝達、加減速、中間プーリの設置による複雑な経路での伝達などが可能であるほか、直動変換にも利用できる。
ただし、ベルトの伸びなどの変形に伴う誤差(ベルト剛性)、ベルトの剛性=バネ特性による振動などの影響を考慮する必要がありうる。軽負荷(モータと減速装置の間の接続を含む)向き。

減速比:回転同士ならプーリの歯数比、直動ならプーリの歯数とベルトのピッチで決まる
効率:高
軸:平行軸(距離が比較的自由)、回転←→直動
バックラッシ:主にベルトの伸び縮みで類似の現象
逆可動性:有
特記:軸間距離の調整の仕掛け、またはベルトに張力をかける別のプーリなどが必要。

以上をもとにモータの選定を行ってみましょう。
ロボットの関節を一つ選び、そこの関節で、
  • 関節に作用する力(直動)、トルク(回転) <既に求めてある
  • 関節の移動速度(直動)、角速度(回転) <ロボットの運動パターンから
をもとに、動力を計算します。効率を50%などと見積もり、モータに要求される動力を計算します。 これをメーカのモータカタログから選定して下さい。

ついで、モータのスペックを確認し、定格回転数から、減速系・直動変換機構にもとめられる減速比を計算してみましょう。