秋月カメラ MK-7428の同期化改造

最終更新: 2003/09/28 13:41:29

ターゲット

ここでは 実際のカメラの改造までの経過を解説します。対象は (株)秋月電子通商で、 11,700円(本体のみ、レンズ付きは15,500円)で販売されている MK-7482NBです。CSマウントでレンズ交換が可能で、 用途が幅広いのとしっかりしたケース入りなので、 (普段は)取り扱いが便利です。これを2個買ってきて、改造しました。

おやくそく

  • 当然、改造するときは、壊す覚悟を決めてください
  • 以下の記述はうまく行った例を示すものです。たまたまかもしれません。 必ずうまく行くことは保証しません。
  • 本ページに基づいて行った行為による損害は、著者熊谷は一切 受け付けません このカメラは、構造的に以下の改造をしても、(壊れなければ) もとに戻すことが出来ますが、普通は戻らないと思ってください。

    カメラの分析

    まずは、カメラの分析にかかります。

    探すもの

    分析によって、見つけ出さなければならないのは、

  • 主たるクロックを発生させているところ
  • 1画面(1/30秒)周期のロジック信号 です。カメラの基板には、を確認して、水晶発振子らしきものは 1個しかありません。オシロスコープで確認すると、約19.1[MHz]で 発振していることが確認できます(カメラには 19.07[MHz]を使うものが わりとあるようです ←3種類の秋月カメラで確認)。

    次に、周期信号を探します。これは、カメラを動かしたまま、 かたっぱしから、探っていきます。この時、1/30周期の信号を 見つけ出すのが難しい場合、もしくは 1/60にも見える信号はあるものの、 1/30かどうか微妙な場合は、2信号を組み合わせます。具体的には、 水平同期信号(15.75[kHz])と垂直同期信号(60[Hz])、もしくはそれぞれに 等価な信号です。この二つを組(例えば XOR)にすると 1/30秒周期が得られます。

    分析結果

    パターン上の信号配置

    カメラの基板の(ばらしてすぐに見えるところ)の 片隅の一番大きな(とはいえ小さい)正方形のICがどうも、タイミング生成部 (というかこれ1個でほぼ全機能)の様です。X1X2は 裏面にある水晶の足です。両者の信号を オシロで観測してみたのですが、 波形からはどちらが入力側か不明でした。適当な抵抗経由で 19.07[MHz]の 波形をつっこんでみて、X1側が入力であることを確認しました。

    次にロジック信号は、適当にあさったところ、1および2と 記した箇所で、それぞれ複合同期信号(映像信号に含まれる同期用信号)と 水平同期信号(CCDを駆動するために多少調整したらしいもの)が得られました。 なお、2については、□で囲んだ箇所を最初改造ターゲットにしたの ですが、ここは半田が載らず、接続先の左下のICの4番目のピン(赤線で示した)を 対象にしました。

    それぞれの信号を観測したものを、2種類示します。
    タイミング1タイミング2
    上が信号1、下が信号2で、垂直同期信号付近を拡大表示しています。 良く見ると、2つの観測結果で、上下の信号のタイミングが、 下の信号半周期分ずれています。これが1/60秒周期で2種類の画面が あるという部分で、これが二つセットで 1/30秒周期になります。

    ここまで分かれば、次はいよいよ改造です。


    カメラの改造

    カメラ本体の改造は2つの手順で行いました。

  • 水晶をはずす
  • クロック供給線、同期信号拾い線、GNDの接続

    まず、水晶は、ごく普通にはずします。
    この手のものをはずすときは、 半田吸い取り線とかはあまり効きません。むしろ、引っ張りながら加熱、 が効果的です。だれかに引っ張って貰うのもいいと思います。 私は一人でやってます。右手は半田ごて、左手は基板です。左手は親指、 中指薬指で基板をホールド、人指し指を水晶にかけます。最初は短い方向の 左右にこじるように力をかけながら、交互に半田を溶かし、ちょっと浮いてきたら、 長手方向に力をかけながら。溶かしていない方の足をてこにする感じで。 ジャンクばらし歴10年以上で、すでに「はずす」と思ったら 無意識に体が反応してしまうので(笑)、口で説明するのは難しいのですが...。
     水晶はずし前水晶はずし後

    次に、既に見つけてあるポイントに線を接続します。

    GNDは触れてませんでしたが、どこか適当に見つけて接続します。 4ピンのコネクタのわきにちょうどありました。
     配線箇所全体図複合同期信号水平同期信号
    ICへの接続は、それなりにやっかいです。四角いICは 0.5mmピッチです。 私の手順は です。軽く引っ張ってみて、ちゃんとくっついたようだったら、 最寄りの場所にホットボンドで固めてしまいました(止めないでいたら、 パターンごと剥離した経験あり)。図では、ピンの基板側に半田付けしてありますが、 2個目以降でICからの生え際の角を試したら、半田付けが楽になりました。 ちなみに、ブリッジした場合は、フラックスをぬってコテ先(無論 半田は落しておきます)でこすってみると解消することがあります。 それでだめなら、半田吸い取り線をつかいましょう。いずれにせよ、 やたらと加熱するのは危険でしょう。

    ここまでやって、テスタで調べてショートの無いことを確認して、 電源を投入してみます。当然、うつりません。そこに、19.07[MHz]の クロックを接続してみると(次節参照)、成功なら映像が映ります。また、 2本の同期信号の線にも、周期的な信号が 観察されます。


    同期化回路の製作と接続

    カメラ単体で、クロックを加えて動作するようになったら、しめたものです。 同期化回路を加えてみます。

    さて、ずっと水晶をはずして別に用意した 19.07[MHz]のクロックを 外部から加えると言ってきました。もちろん、ファンクションジェネレータ などで与えることも出来ますが、カメラを使う度に持ち出すわけにも いきませんので、自前で用意します。
    ある意味、地球に易しい方法は、取り外した水晶の再利用です。ただ、 水晶を安定して発振させる必要があり、面倒です(恥ずかしながら、私はいままで 完全に成功したことないです)。そこで、手っ取り早く信号を得るため、 水晶発振器(not子)を使いました。とはいえ、19.07[MHz]などと 半端な周波数のものはその辺では手に入りません。
    そこで、トラ技で広告を見掛けていた ラムステート株式会社で 購入することにしました。ここはいろいろ扱ってますが、 特注水晶を 扱っています。本物の特注水晶は、高くつき、納期もかかりますが、 PLLを使っているらしい、プログラマブル水晶発振器も扱っていて、 今回はこちらにしました。これだと、5Vを繋ぐだけで、すぐに 目的にクロックが得られます。クロックまわりの動作試験もこれで やっていました(電源は秋月5V SW-ACアダプタ@850円)。
    実際には厳密には周波数は出ず、最寄りの設定可能な周波数になるのですが、 問い合わせして、注文した手元の伝票では、"SG8002DC19.069921PHC" と 記載されています。誤差無しといってもいいと思われます。
    (送料がわりと高いので(^^;; また使うだろうと思って、3個買って ついでに チップ抵抗(@2円)もごそっと買いました。)

    さて、同期化回路ですが、回路的にはこんな感じです。

  • カメラ1のクロック=(not クロック) and イネーブル1
  • カメラ2のクロック=(not クロック) and イネーブル2
  • イネーブル2=not
    ((カメラ1の複合同期 xor カメラ1の水平同期) xor
    (カメラ2の複合同期 xor カメラ2の水平同期))
    をクロックでラッチ(D-FF)
  • 回路図 カメラ1のイネーブル1は、外部入力端子であえて用意します。 これは、2つのカメラに行くクロックの位相差をなくすため、 ゲートディレイを同じにするためです(カメラ2だけ and するとその分遅れる)。もちろん、クロックのライン長も 同じになるようにしたほうがいいでしょう。位相差は色ずれを 招きます。イネーブル2は、両カメラのロジックの一致検出です。 D-FF でラッチすることで、グリッチ(ひげ)を避けます。それと and を取って問題ないように、イネーブルと and するクロックは not してあります(タイミング図を書くとご理解いただけるかと 思います)。速めのロジックICで組んでもいいと思いますが、 手元にGAL-Writer(ずっとまえにトラ技にのっていた ROM-GALライタ: 重宝してます)があるので、GAL1個に書き込んでいます。余裕から すると、やれば4カメラ同期くらいできそうです。
     回路(汚い上にGALなので 参考になるかどうか...)
     カメラと接続

    一番簡単で確実な試験は、カメラ2側から映像信号がでているか どうかです。映像が出ていれば成功です。回路のミスでないことを 確認するには同期信号の線(4本)のどれかをはずしてください。
    (映像が出ている=ちゃんとクロックがでている=同期信号が一致)

    参考までに、2種の同期信号をxor(+D-FFラッチ)したものを、 示しておきます。
     
    やはり、垂直同期部分で、2つの微妙に異なるタイミングパターンが 観測されます。どちらでも、同期していることが確認できます。 以上で、カメラの同期化改造は成功です。


    仕上げ

    剥き出しのままだと、線が引っ掛かって切れたり、危険性が高くなります。 そこで、ケースに納めることにしました。このカメラはすばらしいことに、 背面に余分なコネクタ、しかも 丁度4ピンがついてます。ご丁寧に、プラグもセットで入ってます。 本来 AUTO IRIS用のコネクタみたいですがありがたく流用しました。 H,C,G,X は私の落書きで、水平同期,複合同期、GND、水晶です。 このコネクタの最初からついている線をはずし、GND 以外には 万が一の保護用(気休め)の100Ω抵抗を挟んで線を接続しました。
     写真1写真2
    (注:微妙な理由により、手元のカメラと位置関係が若干違います)

    これで組み立てると、ちょっと進化します。 さらに、同期化回路も箱にいれて、コネクタを有効活用すると 外部同期のカメラに見えます
    (注:微妙な理由により、同期化回路の箱は写真がとれていません)

    以上で、同期した2台のカメラをつくることができました。


    N G

    今日の不幸はあしたの知恵 番外編

    Note: 今日の不幸はあしたの知恵とは?
    いまをさること5年前くらい、M2のころに、書き綴った失敗のみ 集めたページ。いまは、サーバ上にあるものの、リンクは完全に 切れているため、検索にもかからない存在。あの頃は若かったんですね(笑)。 いや、コンセプトは、「失敗を2度と失敗しないように糧とする」なんですけど。


    ところで、このページの写真(オシロ画面はオシロの機能で出力)は どうやってとってるんでしょう。不気味なまでの接写があったりしますが。 実は、これ、全部おなじ機材で取ってます。
     MK-7428(笑)
    改造された2台の他に、撮影用の1台が三脚付きで机の上にのってます。 いえ、載ってました(いまは改造したうちの1台がのってます)。 これは便利です。どうせ画面画質しか要求してないので、640x480 なんかでいいですし、ビデオキャプチャにつないでリアルタイムで 映像を確認しながら、適当に直射電灯を遮ったりピントをあわせたりして、 画像取り込みをするだけです(@Linux-v4l, Thanks to さくらださん)。
    スーパーマクロ画像はカメラのレンズ固定のネジを緩めて、レンズがとれる 限界まで回してます(笑)。

    しかし、彼がまさか主役になるとは、想像してませんでした。

    ある日のお昼前

    以下、博士と弟子の会話(笑)

    博:「うむ、カメラのシステムチェックも済んだし、最終組み立てに入るとするか。」
    弟:「らじゃ。」
    博:「それじゃ、その小さい方のカバーを、カメラの前面板と背板の溝に注意してはめて」
    弟:「は〜い」
    ごそごそ、ぐいぐい、ばちん。から、ころん。
    弟:「はかせ〜、はまったんですけど、なにか転がり出てきました〜。なんでしょ〜?」
    博:「??? ケースを加工したときに 切削屑でものこったか?」
    弟:「それにしては、リアルな形状ですが....」
    博:「!!!」(青→紺色)
    ぱかっ。
    博:「あ"っ!!!」
    弟:「ど、どうしました?」
    博:「こ、コイルが...電源部のコイルが」
    弟:「....。」
    博:「と、とりあえず、しゅ、修理... コアが砕けただけ? コアをセットして.. 
       やっぱりうごかん。あ、断線しちょる」
    弟:「つないでみますか?」
    博:「むろん。」
    ナ:「髪の毛より細い線の接続は困難を極めた。しかし 彼らは気合いでなしとげた」
    弟:「電源、いれてみます?」
    博:「祈りながら。」
    スイッチオン。
    博:「映らないなぁ。まだ切れてるのかなぁ。」
    弟:「はかせ〜、このしゅ〜ってでてる煙みたいの、なんでしょうね?」
    博:「!!! 主電源緊急遮断」
    弟:「ご臨終ですか?」
    博:「ご臨終じゃな」(涙)
    
    ※まじで、事故ったとき、頭の中に人格が二つ出来たみたいです。 呆けて現実を理解しない人格と、冷静に分析した人格と....。

    顛末。

    原因は、CCDカメラの基板をはずしたときの再組み立てです。今回、実は、 カメラのケースを90度回転させて取り付けられるように、前後の板に 切削加工を加えてました。そのため、水晶を取る以外に、完全にばらして いたのですが、どうも取り付けを180度誤ったみたいです。
      
    この正誤は違いが分かりにくいですが、基板を取り付けた金具の 基板の左右にある、ふちの切目の位置が異なります。正しいほうはコイルから 遠く、誤り例では近くなってます。この溝はばらした方ならわかると 思いますが、ケースの側がはまるところで、ここに下側のケースがはまります。 問題は、このケースの側板についている、固定用の雌ねじです。上下2種類の 側板で太さが違うのは気になっていたのですが...。上のは細く、 コイルに当たらないのですが、下のは太く、位置的に コイルに干渉します。ってわけで、180度逆にしたため、干渉位置に コイルが来てしまって、知らずにはめて直撃。みなさんもお気をつけ下さい。
    (上の方で「微妙な理由により」は この辺です)

    で、解決策としては、撮影用に使っていたカメラ(自前)を改造することに 急遽決定。方法は確立していたので、お昼休みに30分くらいでちゃっちゃと 改造終了しました(確立してると そのくらい簡単ですが)。

    まるで、カメラマン2人が主役のドラマを取っていたら、 一人が突然急死して、本物のカメラマンが急遽主役抜擢、という ような....。しかも、悪の組織に改造されちゃいます。不幸な出来事です。 そんなわけで、最後の方、カメラが1台しか映ってなかったりするのは、 同期した一方で、もう一方を取ってたりするからです....。 だって、同期回路はずしちゃうとカメラとして役に立たないんですもの。

    この不幸、みなさんの明日の知恵として役立ててください(合掌)

    さて、撮影用のカメラ、また、かわなきゃなぁ。秋月のWEB発注だと1日で 届くのがありがたいところ。


    熊谷正朗 [→連絡]
    東北学院大学 工学部 機械知能工学科 RDE
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