メカトロニクスの検討

[| ]  最終更新: 2013/06/11 17:20:50

アクチュエータの選択

ロボット・メカトロシステムを構築するために、アクチュエータは不可欠です。 ここでは産業用・生産システム用にに使われるアクチュエータを中心に、概略を紹介します。

産業で使われるアクチュエータ

産業用・工場などの生産設備などで用いられるアクチュエータの一般的特徴として

が挙げられます。 「いわゆるロボット」の開発においては、特殊なエネルギー源が使われることがあったり、一般的ではないアクチュエータが使われていたり、ということがあり、状況は異なります。
ただ、いずれにせよ、何らかの動きを作り出します。


アクチュエータの方式分類

油圧と空気圧はいずれも流体を利用するアクチュエータですが、いうまでもなく、油は圧をかけてもほとんど体積が変わらず、空気は大きく圧縮されるという点です。 そのため、大きな力を出す目的には空気圧は向かず、また、外力がアクチュエータにかかった場合に空気が圧縮されて期待通りの動作をしないことがあります。 一方で、油は回収の経路が必要なのに対して、空気はその場で捨てられること(吹き飛ばしはまさにその例、配管が片道で良い)、空気は漏れても汚染などの直接的トラブルに繋がらないこと、圧縮性を利用して軟らかい(外力で逃げやすい)機構をつくれることなどは、空気圧の利点です。
油圧と空気圧は、「電力などのもととなるエネルギー源を流体のエネルギー(圧力・流量)に変換する部分」と「流体のエネルギーを機械的運動に変換する部分」が分離しているという特徴があります。 前者が大きく重たい一方で、後者は簡潔で比較的小型軽量であるため、設計によっては優位になることもあります。
生産システムにおける空気圧アクチュエータの使われ方は、まさに、この利点を生かしているとも言えます。一カ所で集中してコンプレッサで空気を圧縮し、バルブで流量を制御、細かな間欠動作に小型のエアのシリンダなどを用いています。


アクチュエータの導入形態

油圧・空気圧アクチュエータでは、コンプレッサ、電磁バルブ、アクチュエータ本体などを個別に購入して配管でつなぐと問題なく動作する場合が多い(=単品売りされている)のに対して、電磁アクチュエータ(モータ)の場合は、相応のコントローラ(制御回路・制御装置、後述)が必要な場合が多々あります。
ただの動力として回すモータの場合は、回転数調整のためにインバータを追加する場合もありますが、基本的には電源をつなぐのみで回します。しかし、ある程度きちっとした運動、制御された運動を必要とする場合は、それなりのアクチュエータとそれなりのコントローラが必要です。
多くのアクチュエータメーカでは推奨もしくは必須コントローラを製品と並べてカタログ掲載していますし、場合によっては自作することもあります。

特に、生産設備など、産業用途で使用する場合には、通常は専用コントローラとセットで購入します。 専用コントローラを用いる利点は

という利点があります。ただし、弱点として といったことが挙げられます。その場合は、他社性汎用コントローラや自己開発を検討する必要があるかもしれません。また、アクチュエータの性能をぎりぎり引き出す必要は無く、また量産することが目的、という場合は、自己開発した方がトータルで安くなるラインはあるはずです。


電気モータの種類

アクチュエータの中でも特に広く使われる電気式のモータについてさらに分類します。


実現したい運動の方向と選択肢

直動運動の実現
直動運動の実現


アクチュエータのコントローラ

モータコントローラの例
モータコントローラの例
シーケンス制御によるシステムの例
シーケンス制御によるシステムの例
コンピュータ制御によるシステムの例
コンピュータ制御によるシステムの例
アクチュエータのコントローラという場合、大きくわけて2階層の役割があります。

制御工学的な観点からの制御は前者ですが、それだけでは目的をもった仕事をさせることができません。 そのため、後者、とくに運動の設定が必要になります。 特に産業用途では特定のパターン動作の繰り返しなどを行うケースが多く、「産業用」のアクチュエータのコントローラには後者の機能を併せ持つことが一般的です。 ロボット研究などを行う場合、汎用性の高い動作をさせる場合などは、時々刻々と外部から運動の指令値を入れる必要がありますが、そういった使われ方をするアクチュエータは(コントローラとセット買いされるアクチュエータという意味では)一部です。
歴史的には、マイコンを搭載しない時代は前者の機能のみでしたが、いまどきのアクチュエータはマイコンで制御されることが一般的になり、そのマイコンの余力(一般には前者のほうが圧倒的に演算力を要求される)で付加価値として後者が搭載されるようになって便利になった、と言えます。

右図にモータコントローラの概略を示します。一般に以下のような配線があります(図中の太線は電力を流す=電流の多い=物理的に太い線)。

接点入力、接点出力はオンオフのみでコントローラを利用することができ、シーケンス回路、PLC(シーケンサ:マイコン内蔵でシーケンス回路の相当品をプログラムできる)に接続して使うのに向いています(右図中)。 また、コンピュータ制御で使う場合も、モータの制御オンオフなどの指示はこの端子で行います。
コンピュータ制御で動作を細かく制御したりする場合は、パルス列による指令とエンコーダ出力による実角度の検出が必要になります。ただ、ソフトウエアでこれを行うことは負荷が高いため、一般に専用回路(パルス出力~高級品はモーションコントローラ、カウンタ)を用意します。マイコンの場合は内蔵している物を選びます。

なお、アナログ端子以外は電気的に絶縁されていることが多く、なにかとノイズトラブルの要因になりやすい電力系と、制御系を電気的に切り離せるようになっています。

アクチュエータの選定

アクチュエータを選択する場合、数値的指標としては動力[W]を使用します。
アクチュエータ 減速
動作の変換(リンク、カム)
目的とする動作
アクチュエータの動力[W]
(アクチュエータの電力[W])
変換効率を加味 実際の動力
選 定 速度[m/s]×力[N]
角速度[rad/s]×トルク[Nm]
※[W]=[Nm/s]
アクチュエータの出力をそのまま使うことは稀で、一般には減速機や各種機構による変換を行います。 たとえば減速機で回転速度(角速度)は減る一方でトルクは増します。その過程で、効率分だけ目減りはしますが、速度と力の積の次元を持つ「動力[W]」は維持されます。 よって、逆に、目的とする運動の動力が計算できれば、効率分を加味して、アクチュエータに要求される動力を、減速機や機構の検討をすることなく、得ることができます(実際には効率の見積もりには機構の選定は必要ですが)。 これでアクチュエータを選定し、その最大トルクや最大速度と、実際の運動に要求される力や速度の関係から減速機を選定すればいいわけです。


動力伝達とアクチュエータの検討と選定

ここでは、アクチュエータと動力伝達の選定について、順を追って説明します。 両者の選定は互いに相手に影響を与えますが、まずアクチュエータを選定し、その仕様に応じて、減速系・動力伝達機構の数値的確認を行います。

まず、全体の流れを見てみます。
動力伝達系の流れ
電力などのエネルギー源が、アクチュエータで機械的な運動に変換されます。 これを減速機や機構によって、目的の動きに変換します。

目的とする動きはロボットの仕様によって既に決定されています。

多くの場合、アクチュエータには回転モータを使うので、直動が必要なら直動変換が必要です。 また、多くのモータが「回転は速いけど、トルクが小さめ」なのに対して、ロボットメカトロ用途(たとえばマニピュレータなど)では「回転はほどほどでいいけど、大きなトルクが必要」という場合が多々あります。 これらのミスマッチを解消するために、モータの仕様(トルク・回転数(角速度))出力を、目的とする仕様に変換するために、減速機や運動変換のための機構を用います。

減速機の一般的特性

減速装置の特性は、
動力伝達系の流れ
に示すように、

となります。
なお、減速比は(1/n)のような分数型と(a:b)のような比率型の表示があります。また、同じ数値で減速比nと表示されることもあり、注意が必要です(「減速機」と断言されていれば、どの表記でも間違わないのですが)。

動力系の選定

以上をもとに、ステップを追って、動力系の選定を行います。なお、ここではアクチュエータを電気回転モータに限定します。

ここで着目するのは動力[W]です。力学の式で
動力[W] = 力[N] \times 速度[m/s] = トルク[Nm] \times 角速度[rad/s]
です。効率が100%なら、減速機で速度は1/nに、力がn倍になります。そのため、速度やトルクが変化しても、この動力は変化しません。 目的とする動作から動力を計算すれば、アクチュエータに要求される動力に目安ができます。

ここで紹介した方法は、「モータの動力に余裕があった場合」にその余裕をトルクに振り向けています。 一般に、一度仕様を確定したシステムで「突発的に予定より速度が必要になる」ということはありません(それが必要になったら、仕様変更レベル)。 一方で、何らかの接触、伝達系の油ぎれなどによる摩擦の増加など、突発的に「予定より大きな力が必要になる可能性」は案外あります。そういった場合は普通は「安全率」でカバーしなければなりませんが、その上にさらに力的に余裕を持てる設計になります。

動力伝達要素の選定と例

おなじ減速比、運動変換を行うにも、様々な機構があります。 それらを選定するには、ある程度、特徴を知った上で方式を選定し、より細かな選定を行う必要があります。

まず、減速機・運動変換機構で着目すべき特性は以下のような物があります。


おおむね、以上のようなポイントに着目して、以下、代表的な伝達機構を列挙します。
平歯車 平歯車
減速装置の代表的なもの。

減速比:歯数の比。かなり自由に選定できる。一段で1/3程度が実用的=多段にすることが多い
効率:高
軸:平行軸。2段で同軸にできる。
バックラッシ:有
逆可動性:有(段数が少ないとかなり高い)

遊星歯車 遊星歯車減速機
平歯車よりも減速比は高めで数分の1にできる。多少複雑ながら構造はより強い。特に、同軸であるため、多段にしたときにもコンパクト。

減速比:内歯車、遊星歯車、太陽歯車の歯数で決まる。
効率:高
軸:同軸
バックラッシ:有
逆可動性:有

N/A ギアヘッド
モータに直接取り付けて、モータとセットで販売されることが多い減速装置でギアヘッドと呼ばれる物がある。 遊星歯車減速の場合もあるが、多くは平歯車を1~数段組み合わせてケースに入れた物。
減速比:仕様による

効率:一般に高
軸:平行軸(ただしモータからのずれは少ない)/同軸
バックラッシ:有
逆可動性:一般に有

ハーモニックドライブ ハーモニックドライブ
ハーモニックドライブシステムズ社の製品。変形する円筒状歯車と楕円筒、内歯車を組み合わせた特殊な減速装置で、大幅な減速が可能。大きな減速比と逆可動性を両立しているが、順方向の効率が多少低い(減速比当たりでいえば、平歯車も低下してくるが)。またバックラッシがないなど、様々な点で優れるため、ロボットで採用されている事例はかなり多い。

減速比:構造による。1/100などの減速が1段でできる。
効率:中
軸:同軸
バックラッシ:無
逆可動性:有
特記:高価、そこそこ重い。

ベベルギア、傘歯車 ベベルギア・マイタギア・傘歯車
減速比が1/1のもの(方向だけかえる)をマイタギア、歯数が異なるものをベベルギアという。日本語表記では傘歯車と呼ばれる。 軸の方向を変えるために使われるが、バックラッシが大きいという弱点がある。より正確にいえば、歯車の取り付け位置の微妙なずれでバックラッシが大きく変化する。 そのため、バックラッシが問題になるところには使いにくい。 ただし、バックラッシはさらに減速すると出力軸への影響は少なくなるため、入力軸寄りでは問題にならないこともある。一方、出力軸には原則として使わない方がよい。

減速比:歯数の比。一段で1/3程度が限度。また、特殊な形状の歯車でセットで買うものであり、減速比の選択の余地はほとんど無い(1/1, 1/2, 1/3などの単純比のみ)
効率:高
軸:直交軸。類似品でねじれ軸のものもある。
バックラッシ:有・大
逆可動性:有

ウォームギア ウォーム減速機
ねじ状の円筒歯車=ウォームと、それに対応する平歯車に近い形の歯車=ウォームホイールのセットの減速機。 ウォームが一回転すると、ねじが1歯進み、ホイールも1歯進むため、ホイールの歯数が減速比を決める(ウォーム1回転で2歯進む=2条ねじ、もある)。ウォームとホイールの歯形の設計でさらに分類される。 一段で大きく減速できることと、逆可動性の無さが特徴。

減速比:ウォームの条数(溝の本数、1回転あたりの歯の進み)とホイールの歯数で決まる
効率:中
軸:ねじれ軸
バックラッシ:有(段数が少ないとかなり高い)
逆可動性:無

リンク機構 リンク機構(四つ棒リンク、クランクスライダなど)
運動の変換にもつかえるほか、減速・増速に使うこともでき、設計の自由度は高い。 ただし、一般に非線形特性を持つため、出力を一定速度で動かす場合には入力軸の速度を可変する必要がある。 一方で、場所によって(特に死点に近いところでは)減速比が変化するという特性を利用し、入力軸を一定速度、一定トルクで回しつつ、瞬間的に大きな力を発生させたりできる。
バックラッシなどの特性はリンクのジョイントに依存する。ボールベアリングなどを用いれば、かなり低減できる。

減速比:非線形(三角関数や√が入る)
効率:一般に高
軸:種々
バックラッシ:リンクのジョイントの部品次第
逆可動性:一般に有

台形ネジ 台形ネジ
代表的な直動機構。ネジを回転させると、ナットが進む。パラメータはリード=ネジを1回転させたときに移動する距離である。また、条数=ネジ部の溝の数=1回転させたときに溝が何本ずれるか、も記載されている(一般に、リードの大きなネジは条数が2,3であることがある)。
つぎのボールネジとの最大の違いは逆可動性の有無である。

速度比:リード[mm]は1回転当たりの移動量。なので、(リード/2π)[mm/rad]を用いる。
効率:低
軸:回転←→直動
バックラッシ:有
逆可動性:無

台形ネジ ボールネジ
代表的な直動機構。ネジ機構にボールベアリングのアイデアを融合したようなもので、ネジとナットは直接接触せず、その間で球が転がる(図では隙間があるが、球と溝はほぼ密着)。そのため、極めて滑らかに回り、効率が良く逆可動性もある。 ただし、ナットがネジ端から外れてしまうと球がこぼれ落ち、組立が大変である。

速度比:リード[mm]は1回転当たりの移動量。なので、(リード/2π)[mm/rad]を用いる。
効率:高め
軸:回転←→直動
バックラッシ:ほぼ無(「予圧」により実質ゼロとしたものもある)
逆可動性:有

タイミングベルト タイミングベルト
通常のベルトは滑りが生じるが、タイミングベルトはプーリの歯とベルトの歯が引っかかるため、それ以上のずれは生じない。ベルトとしての特性である、軸間距離の離れたところへの動力伝達、加減速、中間プーリの設置による複雑な経路での伝達などが可能であるほか、直動変換にも利用できる。
ただし、ベルトの伸びなどの変形に伴う誤差(ベルト剛性)、ベルトの剛性=バネ特性による振動などの影響を考慮する必要がありうる。軽負荷(モータと減速装置の間の接続を含む)向き。

減速比:回転同士ならプーリの歯数比、直動ならプーリの歯数とベルトのピッチで決まる
効率:高
軸:平行軸(距離が比較的自由)、回転←→直動
バックラッシ:主にベルトの伸び縮みで類似の現象
逆可動性:有
特記:軸間距離の調整の仕掛け、またはベルトに張力をかける別のプーリなどが必要。

レポート

以上をもとにモータの選定を行ってみましょう。
ロボットの関節を一つ選び、そこの関節で、

をもとに、動力を計算します。効率を50%などと見積もり、モータに要求される動力を計算します。 これをメーカのモータカタログから選定して下さい。

ついで、モータのスペックを確認し、定格回転数から、減速系・直動変換機構にもとめられる減速比を計算してみましょう。


エネルギー供給と見積


センサと計測



熊谷正朗 [→連絡]
東北学院大学 工学部 機械知能工学科 RDE
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